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激突!キャメル・マッチ
セルチェクでは、年に1回『キャメルレスリング』なるお祭りがある。
たまたまうちらがセルチュクに着いた日は、この日だった。
これは文字通りラクダ同士が戦うのだが、「ラクダのレスリングなんて面白いんか?」と思いながらも見てきた。


セルチュクの町からドルムシュ(乗合バン)で、15分くらいの所が会場だった。
乗ってる途中に、小高い丘から煙が上がってるのが見えた。その煙は丘のあちこちから出ている。
そして丘がなんだかゴニョゴニョ動いてるようにも見える。
それを見るや否や、乗客は騒ぎ始めた。
「お!山火事か?」と一瞬期待したが、見事に裏切られた。
その煙の丘こそが、本日のイベント『キャメルレスリング』の会場だったのだ。
山火事の煙に見えたのは、ひしめきあっているケバブ屋の煙。
ゴニョゴニョ動いていたのは人間の大群だった。
つまり丘全体が人間で埋め尽くされていたのだ。

会場に一歩入ると、入口近くに気球があった。
まだ準備の段階で、気球を膨らませている最中だった。
キャメルレスリングとどういう関係があるのかさっぱりわからないが、
おそらくこのイベントを盛り立てる1つに違いない。
ずんずん先へ進んで行くと、ケバブ屋、乾物屋(鰹節や昆布ではなく、ナッツやドライフルーツを売ってる)、
ビール屋に、ワインの試飲までやってた。
みんな昼間っから酒を飲んで、いい感じになってるようだ。
おっさん達は、ラクダを見るというよりビールを飲む方に重心を置いているようで、
所狭しと並んだテーブルには、ビールの空き瓶が山になってる。

「一体何しに来たんだろうか。そうかビール飲みに来たんか」

年に1回のお祭りの意義をそう納得してみたが、釈然としないままレスリングを見始めていた。


レスリング場は学校の体育館くらいの広さで、そこにでラクダ2頭が戦う。
ラクダの装備は、こぶの部分に派手な装飾の布地をつけて、首の後ろには鐘がついている。
これがぶつかり合うたびに、ガランガランと鳴る。
口元は紐で縛られるか、布で覆われていて、試合の時間になるとこれを外すのだ。
これらは、装備じゃなくって単なる飾りなんだけど、『ドラクエやりたい病』の私には、装備品に見えた。


最初に見た試合は、もう終わる寸前だったので、次の試合は頭っから見ることができた。
まずは人間に引っ張られながら、やる気のなさそうなラクダの入場。

「試合前からやる気をなくしてどうする」

いやいや引っ張られながら真ん中の方へと進んで行くが、しまいには座ってしまった。

「そんなところでくつろぐんじゃない」

ラクダの怠惰な態度を見ながらの1人つっこみはいい暇つぶしになった。
そして反対側からも選手(ラクダ)の入場。
これまた相手に引けを取らずにやる気度ゼロ。たいしたもんだ。
ここまで来ると、もうレスリングという概念は頭の隅に追いやられてしまった。

ラクダの側の人間が両方のラクダの口紐を外すと、なんだか口の周囲が白くなっているのに気がついた。
その白いものは、結構な量で、下に垂れているようにも見える。
何だろうと思っていた私の方へとラクダが近づいて来たとき、ようやくその正体を掴むことができた。

よだれだ。

口中によだれをつけて、さらによだれを出しつづけているのだ。
歩くたびに、よだれは糸を引きながら下に垂れ、口紐を持っている人間にも容赦なく白い雨が降り注ぐ。
興奮しているのか、ほっぺた辺りをブルブル振るわせ、よだれと泡を排出している。

「うわー汚ねー」

キャメルレスリングの印象を聞かれたら、真っ先にこう答えるだろう。
それくらいよだれのインパクトはきつかった。
「モロッコの砂漠でラクダに乗りたいわー」なんて夢を描いていた私は、
このラクダの正体を見てその気も失せた。

さてさて、よだれを垂らし続ける2頭を近づけ、ラクダをけしかけるように、人間が相手側へとどつくと、
たちまちレスリングの開始となった。
首を絡めあい、力任せに押し合う。ぶつかり合うたびに鳴る鐘の音。
体ごと相手にぶつけるまさに肉弾戦。
さっきまでのやる気のなさはどこへやら。なかなかいい試合っぷりだ。
しかしその間にも、よだれは垂らし続けている。
自分の体にもかかってるし、相手の体にもたっぷりかかってる。
ラクダの戦いを見てるよりも、よだれの行方が気になっていた私は、よだれに夢中だ。

「うわー。また飛び散った。あっ。泡ふいてる。小学生の鼻ちょうちんみてーだな」

そんなことを思っていたら、ふとある考えが思いついた。

「ドンドゥルマに似てるな」

ドンドゥルマとは、トルコのアイスクリームのことで、びろ〜んと伸びることで知られている。(写真参照)
見た目は普通のアイスだが、食べるとモチモチしていて、スプーンですくうと伸びる伸びる。
これに似てるのだ。バニラアイスに。
トルコにはラクダが多いのかどうか知らないが、キャメルレスリングが有名ということは、
生息しているのかもしれない。
ということは、ラクダを見る機会も当然あるだろう。
つまりドンドゥルマの発明者が、ラクダを見た可能性もあるのではないだろうか。
そして、ラクダのよだれからインスピレーションを得て、ドンドゥルマの発明に至ったのではないか。
こんなアホみたいな考えが思いつく私自身アホなんだが、案外そうだったりしてと思わせる説得力。
これはラクダのよだれとドンドゥルマを食べた人にしかわからないことだと思う。
ラクダのよだれ写真を撮ればもっとよくわかるのだが、残念ながらカメラを持っていなかった。

「あの時カメラさえあれば・・・・」

と今でも悔やむ出来事である。

とにかく、よだれに目を奪われている私には、レスリングではなくよだれの掛け合いにしか見えなかった。
どっちが強かったかじゃなくって、どっちが多くよだれを掛けたか。
それか、よだれの排出量・泡の吹き具合・粘着率を考慮して、勝敗を決めるとか。
結局のところ、勝敗はついたのか全然わからなかったが、そんなことどうでもいい。

『ドンドゥルマの起源はラクダのよだれである』

という勝手な持論ができたので、キャメルレスリングに来た甲斐はあったと思う。

2001/1/25

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