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運転手の陰謀

メキシコへ行くと言ったら知人が注意をしてくれた。

「夜行バスは寒くて眠れないから、 服持っていけ」


今まで海外の乗り物では散々寒い思いをしてきた。
日本ならば快適に過ごせるように空調には気を使うものだが、
海外でそんな気を使われたことは滅多になかった。
なぜか後進国ほどその現象は顕著に現れる。

暑いからクーラーを入れてくれるのはありがたいが、
ここまで下げたら涼しいどころか、
むしろ寒くて震えるから暖房プリーズっていうことがよくあった。
その度にリュックの中からありったけの服を引っ張り出して、
可能な限り重ね着をする。
窓を見ると水滴が付いており、真っ白。
外の様子は見えない。

「あれ?今冬だっけ?」

でも歩いてる人は半袖で歩いている。
どうやら世間は真夏らしい。
ガラス一枚隔てて、ツンドラ地帯と亜熱帯気候が隣り合わせ。
まさにバーチャル世界気候巡り。
寒くて眠れぬ夜を夜行バスで過ごす羽目になる。

そしてバスを降りた途端、外気温と調和しない服装のおかげで
滝のような汗が噴出。
しかしバスターミナルで脱ぐよりも、
ここまできたら意地でも宿までこの格好で行ってやると、
何に対しての意地なのか不明だが、
顔を紅潮させ、宿に着いたこともしょっちゅうだった。
さすがにバンコクでこれをやったら暑くて死にそうだったが。
・・・ということでどんなに真夏へ行こうとも、必ず防寒着は持っていくようにしている。


さて、メキシコでの最初の夜行バス。
言いつけ通り、フリースを着込み、大判の布をひざ下にかけ、
毛糸の帽子と 首元にはマフラーをした。
このままスキー場に行っても違和感はない。
隣に人はいないから、横になってグーグー寝ることにした。

夜中に寒くて目が覚める。
寒い。
これだけ着込んでもまだ寒い。
周囲に目をやると、みんなセーターや布をかけている。
体感温度の異なる欧米人パッカーですら、上着を羽織っている。
寒い。
運転手は寒い方が頭が冴えていいかもしれないが、
乗客は寝ることによって体温が下がるんだから、暖房を入れるべきだろう。
このやろう。暖房入れろ。


ここでひとつの考えが浮かんだ。

「 もしかしたらわざと寒くしてねーか?」

運転手は夜通しハンドルを握って、目的地を目指す間、
乗客は眠り呆けている。
自分が前の遅い車にイライラしながら、後ろからはパッシングされている時に、
乗客はヨダレを垂らして、大いびきをかいている。
一生懸命に働いている間、何でこいつらは寝てられるんだ?
目が覚めれば目的地について、家族が迎えに来て。
呑気なもんだ。
大体誰のおかげで時間通りに、到着すると思ってるんだ。
俺のおかげだろ?
だったら俺と一緒に運転を見守るのが義務ってものじゃないか?
そうだ。
こんな理不尽な話があってたまるか。
よし。 あいつらを眠らせないように妨害してやれ。
でもどうやればいいのか・・・。
急ブレーキ&急発進でもいいけど、事故はまずいし・・・。
Gのかけ過ぎで対向車にぶつかるってのも困る。
そうだ。
冷房をかけて車内をギンギンに冷やそう。
それでは早速。
ほれ。冷房を最強に、と。
みんな鳥肌立てて起きやがれ。
いひひひひ。


・・・こんな風に考えるのは邪推だろうか。
でもそのくらい寒いメキシコのバスなのだ。


2004/03/16


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